青山美智子 お探し物は図書室まで
あらすじ
「お探し物は、本ですか? 仕事ですか? 人生ですか?」
仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。
自分が本当に「探している物」に気がつき、明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。
感想
5つの短編で構成されていて、悩みや将来への不安を抱える幅広い年代の主人公たちが一風変わった司書が勧める一冊の本をきっかけに人生を変えていく物語です。
この物語のキーワードは「いつか」
いつか好きなことを仕事にしたい
いつか自分のお店を開きたい
いつかあの人に会いに行きたい
あれ「いつか」っていつだ?
この物語の主人公たちは1冊の本をきっかけに自らの行動で「いつか」を掴んでいきます。
過去・現在・未来を見つめながら勇気を出して最初の一歩を踏み出した主人公たちに胸が熱くなりました。
そしてそのちっぽけな勇気が不思議な「縁」となって繋がっていきます。
本には人生を変えるきっかけになるヒントが散りばめられていて、読書をする意味はその数え切れないほどある本の中から自分だけの「鍵」を見つけることだと思います。
人それぞれ違う「お探し物」を見つけるために今日も僕たちは読書をするのかもしれません。
そしてこの一冊がそのきっかけになることを願っています。
平野啓一郎 私とは何か「個人」から「分人」へ
あらすじ
嫌いな自分を肯定するには?自分らしさはどう生まれるのか?他者との距離感をいかに取るのか?
恋愛・職場・家族…. 人間関係に悩む全ての人へ。
小説と格闘する中で生まれた、目から鱗の人間観。
感想
友達が自分に接する時とAくんと接する時で全然態度や表情が違ったという経験はありませんか?
家族でさえ、家で見せる一面と違う一面を僕たちの見えないところで見せているのかもしれません。
だけどそれでいいのです。僕自身、八方美人なところがありますが、この本のおかげでそんな自分も肯定することができました。
むしろ、誰に対しても同じ態度で接する人は傲慢なのかもしれません。(そんな人って本当にいるのでしょうか?)
「自分」はいくつもあってそれを認めて肯定すること。
そして、その人といる時の自分を好きになれる人を愛すること。逆にその人のことが好きでも、その人といる自分が嫌いなら離れるべきであること。
人間関係においてこの考え方に救われる人は多いのではないでしょうか?
Aくんと接する自分、家族と接する自分、恋人と接する自分。色んな自分がいることを肯定できるようになると、だんだん自分のことが愛おしくなってきます。
自分探しで迷子になってる方、人間関係の悩みをすっきりさせたい方におすすめです。
山本文緒 自転しながら公転する
あらすじ
母の看病のために実家に戻ってきた32歳の都。
アウトレットモールのアパレルで契約社員として働きながら、すし職人の貫一と付き合い始めるが、彼との結婚は見えない。
職場は頼りない店長、上司のセクハラと問題だらけ。母の具合は一進一退。
正社員になるべき?運命の人は他にいる?
ぐるぐると思い悩む都がたどり着いた答えは…
揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編。
感想
「揺れる心を優しく包み、あたたかな共感で満たす傑作長編」
あらすじに書いてある言葉。そんなの嘘だ。
この作品は誰しもが目を逸らしたくなるような現実を真正面から叩きつけてきます。
仕事・恋愛・介護・友達関係
不安は尽きなくて、考えなきゃいけないけど考えることを放棄してしまうような現実たちがアラサーの主人公に一気に降りかかってきます。
そして、それらを一通り乗り越えて病気の世話をされる側になった主人公の母親視点が出てくるのも新鮮でした。
「将来」はぼんやりしていて、それは「現実」として突如僕たちの前に姿を現します。人生は基本的にアドリブなのです。
ただ、この物語は僕たちに一筋の明るい光も示してくれます。現実は厳しいんだよと諭しながらも、無責任に手放したりはしません。著者の山本文緒さんなりの優しさでしょう。
将来への不安は尽きない。だからこそ「今」を一生懸命生きればなんとかなること。「幸せ」の形は人それぞれであることを主人公が自ら示してくれます。
漠然とした将来への不安を抱えながらも、まだ現実味がなく先送りにしてしまっている世代。そしてある程度乗り越えたけれど、まだまだ将来への不安は尽きない世代。
どちらが読んでも色々感じることがある作品です。
さくらももこ もものかんづめ
あらすじ
「こんなに面白い本があったのか!」と小学生からお年寄りまでを笑いの渦に巻き込んだ爆笑エッセイの金字塔!
著者が日常で体験した出来事に父ヒロシや母・姉など、今やお馴染みの家族も登場し、愉快で楽しい笑いが満載の一冊。
脅威の水虫撃退作戦、たった2ヶ月のOL生活、恐怖の露出狂男との対面事件、銭湯での怖い体験…
発売以来、日本中を笑わせ続けているさくらももこのエッセイ第一弾。
感想
日曜日。ちびまる子ちゃんからのサザエさんという黄金打線が大好きです。今でもたまにフルで見てしまうほど。
この一冊は、その黄金打線のトップバッターを担う、「ちびまる子ちゃん」の作者が、何気ない日常を面白おかしく描いた短編エッセイ集です。
なんといっても1文目から心を掴まれます。
「水虫といえばおっさんの持病であり、それにかかると脂足に甚だしい異臭を放ち、その靴および靴下は、家族の間では汚物とみなされるという恐ろしい病気である。そんな大変な病気に、私は16の夏、冒されてしまった。」
そして1文目でハードルをフルまで上げておいてオチまでちゃんと面白いんです。
誰しもが心当たりがあるような日常の何気ない瞬間を、さくらももこさんならではの視点で切り取った描写が絶妙で、クスっとどころか大爆笑してしまいます。
電車で読むのは絶対におすすめしません。
著者のさくらももこさんは2018年に亡くなっています。読後改めて見た帯の「ありがとう さくらももこ先生」という寄せ書きに思わず涙が溢れました。
その俳優がすでに亡くなっているのを知りながら、出演作品を見るような感覚。あんなにも笑わせてくれて、身近に感じていた方がもうこの世にはいないと考えるとものすごく寂しい気持ちになります。
だけど「ちびまる子ちゃん」という作品が色褪せることはありません。そして、さくらももこさんは僕たちの記憶と心にいつまでも残り続けるでしょう。
そんな僕たちの思い出、ちびまる子ちゃんの原点のような作品。ぜひ読んでみてください。
まとめ
12月のおすすめ本いかがだったでしょうか? 気になる本、読んでみたい本は見つかりましたか?
あっという間に1年も終わりに近づき、年末ムードが漂ってきています。
今年はたくさんの素敵な本、そして読書好きのみなさんとの出会いがあり充実した1年間でした。
今年読み残した本はありませんか?来年も引き続き読書を楽しんでいきましょう!