森絵都 カラフル

あらすじ
「おめでとうございます! 抽選にあたりました! 」
生前の罪により輪廻のサイクルからはずされたぼくの魂が天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。
中学三年生の少年、命を落とした小林真の体にホームステイし、 自分の罪を思い出さなければならないのだ。
ガイド役の天使のプラプラによると、父親は利己的で母親は不倫しており、兄の満は無神経な意地悪男らしい。
学校に行ってみると友達がいなかったらしい真に話しかけてくるのは変なチビ女だけ。
絵を描くのが好きだった真は美術室に通いつめていた。
ぼくが真として過ごすうちに、しだいに家族やクラスメイトとの距離が変っていく。
モノクロームだった周囲のイメージが、様々な色で満ちてくるーー。
高校生が選んだ読みたい文庫ナンバー1。
累計100万部突破の大人も泣ける不朽の名作青春小説。
感想
僕がこの作品を初めて読んだのは、小学生の頃だった。
当時、小学生にとっては刺激の強い描写があることから同級生の間で避けられていた。(今となっては、そんなこと??と思うような描写)
「ならどうして司書のおすすめ本として扱われているんだろう?」
好奇心旺盛な年頃の僕は、人目を盗んで図書室に借りに行ったことを覚えている。
小学生の僕がこの作品を読んで何を思ったかは、正直記憶にない。
そして時は流れ、大人になった僕。
そんなことを思い出しながら、久しぶりに読み返してみた。
この物語の主人公は命を落とした男の子に生まれ変わり、その男の子として人生を歩んでいくことになる。
知らない方が幸せだったこと、目を瞑りたくなるような現実。
主人公は、人間の醜い部分を知って絶望する。
生きていれば上手くいくこともあれば、もちろん上手くいかないこともある。
人はいつかは自分を受け入れて生きていくしかないから、どんなに嫌な自分もいつかは受け入れなければいけない。
特に、できない自分を受け入れることは難しい。
だけど、「まあ、できないこともあるよな」「できない自分でもいいよな」と、自分のありのままを受け入れて初めて、自分の見えている世界が一変する。
自分を許せるようになる。
できない自分も、自分の背中を押してくれる強い味方になり得る。
どうせ自分は大したことができないから、なんだって好きにやってみよう。
そう思えた時、目の前には清々しい未来が待っている。
学生時代は特に、今置かれている環境がこの世界の全てのように感じられて、小さな単位であるクラス内で上手く立ち回れないことにも絶望してしまう。
自分が世界から置き去りにされているような疎外感。
自分の味方は誰もいないのではないかという孤独感。
置かれた場所で咲くことももちろん大切だが、自分がまだ知らない輝ける世界はいくらでも広がっている。
そのことを知っているだけでも心のお守りになる。
小学校の司書さんがおすすめした理由と伝えたかったこと。
大人になった僕なら理解できる気がする。
万城目学 八月の御所グラウンド

あらすじ
京都が生んだ、やさしい奇跡。
ホルモー・シリーズ以来16年ぶり、京都×青春感動作。
女子全国高校駅伝 都大路にピンチランナーとして挑む、絶望的に方向音痴な女子高校生。
謎の草野球大会 借金のカタに、早朝の御所G(グラウンド)でたまひで杯に参加する羽目になった大学生。
京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとは 。
今度のマキメは、じんわり優しく、少し切ない人生の、愛しく、ほろ苦い味わいを綴る傑作2篇。
感想
青春。それは、自分が真っ只中にいる時には気づけない。
いつだって気づくのは、その日々が過ぎ去ってからだ。
学生時代の何気ない日常。
時間割によって定められた授業と、放課後の部活。
当時は、その日常が永遠に続くような気がする。
当たり前になりすぎて、尊さに気づけない。
学生の頃、青春小説があまり響かない理由もここにあると思う。
大人になって初めて、もう戻って来ない日々と、その余白に対して感慨深さを感じる。
この作品は、王道青春ストーリーにファンタジー要素を絡めた少し不思議な物語。
そしてそこに平和について考えさせられる要素も絡み、読後自然と目頭と胸が熱くなる。
今作も何気ない日常の中にほんの少し不思議な出来事が紛れ込み、それがなんの違和感もなくストンと胸に落ちる万城目さんらしさ全開の作品だった。
詳細はネタバレになるため書けないが、終盤にかけて二十歳前後の若者の無念や「生きている」という当たり前の平和の尊さが描かれていく。
青春を突如奪われ、正義や理不尽な大義のために命をかけた時代に生まれた学生たち。
好きなことも諦め、夢を奪われた僕と同年代の若者たち。
自分の意思で自分の未来が決められない彼らに想いを馳せてしまう。
限りある時間、当たり前の日常。
大切さに気づくのはいつだって、失ってからだ。
だけど、今の時代は自分の意思次第でいつだって現実を変えられる。
他人によって残酷に奪われることはない。
青春。それは、自分次第でいくつになっても取り戻すことができるのかもしれない。
宇佐見りん 推し燃ゆ

あらすじ
「推しが燃えた。ファンを殴ったらしい」
逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。
アイドル上野真幸を””解釈””することに心血を注ぐあかり。
ある日突然、推しが炎上し…
デビュー作『かか』が第33回三島賞受賞。
21歳、圧巻の第二作。
感想
「推し」
コロナ禍をきっかけに耳にすることが増えたように感じる。
「推しが尊い」
「推ししか勝たん」
一般的にその対象は、アイドルや俳優であることが多い。
この物語の主人公もやはり、一人のアイドルを推す。
人生の一部、いや人生の全てを推しに捧げる。
人生、そして人格を形成しているのは推しで、彼女の本心が描かれることはない。
僕は、そこまで推しに傾倒している主人公に全く共感することができなかった。
ある事実に気づくまでは。
推しが炎上し、芸能界を離れることが分かった瞬間、彼女は現実と向き合うことになる。
彼女にとっての依存の対象、生きがいを失い、初めて彼女は自分の人生を生きることになるのだ。
現実を直視しないために一種の逃避として依存する対象。
それは時に恋人、家族、仕事だってそうだ。
仮にその対象を失った時、僕たちがどうなってしまうのか。
「推し」その正体が分かった時、この物語は一気に他人事とは思えなくなる。
この作品では人々が求めるもの、そして喪失のその先に見えるものが描かれていく。
依存の対象を失って初めて、自分の人生が見えてくる。
人は一人では生きていけない。
だけど、最後は絶対に一人なのだ。
朝井リョウ どうしても生きてる

あらすじ
死んでしまいたいと思うとき、そこに明確な理由はない。
心は答え合わせなどできない。「健やかな論理」
尊敬する上司の不適切な動画が流出した。
本当の痛みの在り処が写されているような気がした。「そんなの痛いに決まってる」
生まれたときに引かされる籤は、どんな枝にも結べない。「籤」
鬱屈を抱え生きぬく人々の姿を活写した、心が疼く全六編。
感想
朝井リョウさんの文章は信じられる。
本来なら口に出さず、一人で抱え込んでしまうような感情を吐き出してくれるからだ。
そして、暗い気持ちになってしまうようなリアルさや現実と同じような残酷な結末の中にも、一縷の望みが描かれる。
この作品は6人の鬱屈を抱える主人公たちを描いた短編集だ。
そして、どの短編もハッピーエンドでは終わらない。
自分の心の声に従って生きることの難しさを認めながら足掻きつつも、決して上手くはいかない「リアル」が描かれていく。
あまりの生々しさに途中で投げ出したくなった。
それが短編として6つ連続で続く。
それでも途中で投げ出さずに読み切ってしまうのは、僕含め読者が心のどこかで主人公たちに共感してしまうからだと思う。
この作品を読んで、なんとも思わない人はおそらく幸せだ。
そして、この物語の中にも主人公たちとの対比としてそのような人物が描かれる。
だけど、共感できない物に触れた方が自分の輪郭を変えられるとも思う。
自分が理解している世界がいかに狭いか認識することができる。
だからこそ僕は、この作品を全ての人におすすめしたい。
良くも悪くも、自分の中の何かを変えるきっかけになり得る。