凪良ゆう 星を編む
あらすじ
2023年本屋大賞受賞作 シリーズ最新作
第20回本屋大賞受賞作『汝、星のごとく』続編
花火のように煌めいて、
届かぬ星を見上げて、
海のように見守って、
いつでもそこには愛があった。
ああ、そうか。
わたしたちは幸せだったのかもしれないね。
『汝、星のごとく』で語りきれなかった愛の物語
「春に翔ぶ」--瀬戸内の島で出会った櫂と暁海。二人を支える教師・北原が秘めた過去。彼が病院で話しかけられた教え子の菜々が抱えていた問題とは?
「星を編む」--才能という名の星を輝かせるために、魂を燃やす編集者たちの物語。漫画原作者・作家となった櫂を担当した編集者二人が繋いだもの。
「波を渡る」--花火のように煌めく時間を経て、愛の果てにも暁海の人生は続いていく。『汝、星のごとく』の先に描かれる、繋がる未来と新たな愛の形。
感想
前作「汝、星のごとく」では、主人公の「暁海」と「櫂」を中心にストーリーが展開されていきます。
続編である今作は、その二人の人生を支えた脇役たちの、アナザーストーリーが描かれていきます。
誰しもが自分の人生の主役であり、誰かの人生の脇役ですがこの物語の場合は例外なのかもしれません。
自分の人生を全て捧げ、その人のためならなんでもできるという人に出会ったことはありますか?
この物語の主人公たちは、周りから冷たい目で見られたり噂を流されるのを厭わず、誰かのために自分の人生を捧げました。
世間一般の「正しさ」から道を踏み外したとしても、本人が望んで自分らしく生きているのであれば、その「幸せ」を誰も踏みにじることはできません。
世間から見た「幸せ」と自分なりの「幸せ」は必ずしも一致するわけではない。
誰もが必死に足掻きながら生きているからこそ、道を踏み外した人のことを叩きたくなってしまう。
だけど、本人たちは強く生きています。
「事実」「真実」は大きく異なる。
「汝、星のごとく」「星を編む」
どちらの主人公も自分なりの幸せを掴みました。
そして今の時代だからこそ、僕たち読者は心を動かされたのかもしれません。
島本理生 2020年の恋人たち
あらすじ
ワインバーを営んでいた母が突然の事故死。
落ち着く間もなく、店を継ぐかどうか、前原葵は選択を迫られる。
同棲しているのに会話がない恋人の港、母の店の常連だった幸村、店を手伝ってもらうことになった松尾、試飲会で知り合った瀬名、そして……。
楽しいこともあった。助けられたことも。だけどもう、いらない。
めまぐるしく動く日常と関係性のなかで、葵が選んだものと選ばなかったものーー
感想
孤独を抱えていない人なんていないと思います。
だけど、それを隠すのが上手い人がいるのも事実です。
主人公は関係を持つ男から「気が強いよね」と言われるなど周囲からは「強い女」として映っています。
だけど実際は脆くて繊細で何度も孤独に打ちひしがれそうになります。
そして人は恋をすると弱くなる生き物なのかもしれません。
好きだけど一緒にいる時に感じる孤独感だったり、次会う時までの時間の長さへの不安を抱えてしまって純粋に楽しめなくなったり。
別れて出会ってをあと何回繰り返せばいいのかと不安になることも。
大人になるにつれ、学生時代の「好きです、付き合ってください」みたいな純粋な恋愛ができなくなっていって、曖昧な関係も増えていきます。
人と人は所詮他人であって完全に分かり合うことはできない。
だからこそ昔のように気持ちを素直に表現できずに、すれ違っていくのかもしれません。
だけど「孤独」を抱える者同士、向き合うことは可能です。
分かり合えないからこそ寄り添える。
弱いからこそ補い合える。
いつか終わりが来るかもしれない。
だけどそれは今じゃない。
出会って別れてまた出会って…
その一つ一つは決して無駄ではない。
ふと思い出した時にそれぞれの幸せを願える。
それが本気の恋をした人だけの特権です。
大人のリアルな恋愛を描いた作品だからこそ、改めて大切なことに気づかされました。
二宮敦人 最後の秘境 東京藝大ー天才たちのカオスな日常
あらすじ
才能勝負の難関入試を突破した天才たちは、やはり只者ではなかった。
口笛で合格した世界チャンプがいるかと思えば、ブラジャーを仮面に、ハートのニップレス姿で究極の美を追究する者あり。
お隣の上野動物園からペンギンを釣り上げたという伝説の猛者は実在するのか?
「芸術家の卵」たちの楽園に潜入した前人未到の探検記。
感想
誰かに認められるとか、誰かに勝つとか、そういう考えと離れたところに二人はいるようだ。
あくまで自然に、楽しんで最前線を走っていく。天才とはそういうものなのかもしれない。
(本文から引用)
僕の知り合いに残念ながら東京藝大の人はいません。
だからこそ、未知の世界を覗いてるような感覚になって一気読みしてしまった作品です。
この作品の主人公たちはいわゆる「天才」
そんな彼らの苦悩や葛藤も垣間見ることができて、少し親近感を感じることができました。
それをやりたいから藝大に入ったという前向きな理由を持つ学生ばかりではなく、幼少期から生活の一部になってしまい、もう離れられないという理由で続けている生徒も。
一種の呪いをかけられてしまっているという表現に天才なりの苦悩を感じました。
そしてなんとKing Gnuのボーカル井口理の在学時代の貴重なインタビューが!
今となっては「奇人」「変人」と揶揄される彼が当時は爽やかイケメン、モテ男として描かれていました。
King Gnuファンとしては少し違和感を抱いてしまう場面も。
おそらく東京藝大には彼を超える個性的な人物が多すぎて埋もれてしまっていたのでは…
さらに秘境「東京藝大」に興味がわきました。
音楽や芸術にまったく興味や知識が無い方にとっても、筆者がこちら側の視点で書いてくれているので読みやすい内容になってます。
興味がわいた方はぜひ手に取ってみてください。
角田光代 くまちゃん
あらすじ
風変わりなくまの絵柄の服に身を包む、芸術家気取りの英之。
人生最大級の偶然に賭け、憧れのバンドマンに接近したゆりえ。舞台女優の夢を捨て、有望画家との結婚を狙う希麻子。
ぱっとしない毎日が一変しそうな期待に、彼らはさっそく、身近な恋を整理しはじめるが……。
ふる/ふられる、でつながる男女の輪に、学生以上・社会人未満の揺れる心を映した共感度抜群の
「ふられ」小説。
感想
恋愛は視点によって大きく変わる。
この事実を改めて思い知らされた作品でした。
誰かを振った人が次の短編で誰かに振られる。その繰り返し。
恋愛って想いが強い方がたくさん悲しい経験をする残酷なものですよね。
だけどあなたが振られたあの人もそれまでに悲しい経験があって、それを乗り越えたからこそ今の「あの人」があるということを実感しました。
特に刺さったのが主人公のひとりが自分が振られた時に初めて、あんなに好きでいてくれたけど刺激を求めて振ってしまった「あの人」を思い出すシーンでした。
自分が振られた辛さを知って、あの時「あの人」も辛かったんだろうなと思い出す。
それって酷いことのように思えて素敵なことだと思いました。
離れてしまって、もうおそらく一生会うことのないかつての恋人のことを思い出す。
「元気にやってるかな」
「あの食べ物が大好きでよく付き合わされたな」
「今は何をしてるんだろう」
あの時の別れがあったからこそ、今の自分がある。
1つの恋愛を終えて前に進もうとしている人に刺さる作品です。
まとめ
気づいたら1月もあと少しで終わってしまいますね。
1年ってほんとあっという間だよねと12月に言っている僕の姿が既に目に浮かびます。
今月は一風変わった恋愛小説を中心にピックアップさせていただきました。
紹介した作品の主人公たちは辛い出来事を乗り越え前に進んでいきます。
心機一転のこの時期にぴったりの作品なのではないでしょうか。
気になった作品はありましたか?
今年は僕自身、勝負の1年になりそうですが変わらず読書は続けていきます。
おすすめの作品など共有できたら嬉しいです。
遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします。