小川糸 『ライオンのおやつ』
あらすじ
人生の最後に食べたいおやつは何ですか――
若くして余命を告げられた主人公の雫は、瀬戸内の島のホスピスで残りの日々を過ごすことを決め、穏やかな景色のなか、本当にしたかったことを考える。
ホスピスでは、毎週日曜日、入居者がリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫はなかなか選べずにいた。
―食べて、生きて、この世から旅立つ。
すべての人にいつか訪れる結末をあたたかく描き出す、今が愛おしくなる物語。
感想
病気を題材にした作品はなんとなく暗い雰囲気になりがちです。
だけどこの一冊は違う。辛くて泣けるというよりは温かい気持ちのまま泣けます。
読後、目の前が急に開けたような感覚になり、身近な当たり前に感謝したくなる。そんな一冊。
人生って失ってから初めて気づくことが多すぎます。後悔は尽きません。
逃れられない結末。そして向き合い方。その時が近づき人は何を思うのか。
恥ずかしかったり、正直になれなかったり。何気ないことに感謝するのは難しい。
だからこそ、後悔を少しでも減らせるように毎日を大切にしていこう。
月並みな言葉だけど、この本が改めて強くそう思わせてくれました。
朝井リョウ 『スター』
あらすじ
「どっちが先に有名監督になるか、勝負だな」
新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。ふたりは大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。
受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応―
作品の質や価値は何をもって測られるのか。
私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。
感想
プロとアマチュアの境界線が取り除かれた時代においてのそれぞれの苦悩や葛藤、そして成長が、
「この時代のスターとは」というテーマで描かれていきます。
誰もがスマホ1つで自分自身のことを発信できる時代。
フォロワー数やいいねの数が可視化され、気づかぬうちに世界規模のレースに参加させられている時代。
他人と比較するべきではないと分かっていながらも、無意識のうちに「あの人はフォロワーが多いから」などと勝手に比べてへこんだり。
「あの人はSNSをやってないらしいよ」とまるでそれが悪いことであるかのように扱ってしまったり。
そんな現代社会において誰もが抱える他人との無意識な比較による生きづらさ、そして見栄やプライドが巧妙に描かれていきます。
そしてこの作品は僕たち読者にただ「答え」を示すのではなく「問い」を投げかけてきます。
時代の流れの速さに翻弄され疲れてしまった僕たちの道標になり得る一冊です。
辻村深月 『盲目的な恋と友情』
あらすじ
これが、私の、復讐。私を見下したすべての男と、そして女への―。
一人の美しい大学生の女と、その恋人の指揮者の男。そして彼女の醜い女友達。彼らは親密になるほどに、肥大した自意識に縛られ、嫉妬に狂わされていく。そう、女の美醜は女が決めるから―。
恋に堕ちる愚かさと、恋から拒絶される屈辱感を、息苦しいまでに突きつける。
醜さゆえ、美しさゆえの劣等感をあぶり出した、鬼気迫る書下し長編。
感想
嫉妬、独占欲、依存などを含め、あらゆる感情がごちゃ混ぜになったもののことを僕たちは「恋」や「友情」と呼びます。
恋や友情と一括りにすると響きはいいけど、中には人間の心を意図も容易く崩壊させてしまうものもあります。
恋と友情はどちらかの思いが強すぎると境界線が分からなくなってしまう。
この作品で描かれる「恋」と「友情」はまさにそう。
年上の男に惹かれて周りから反対されても抜け出さない沼にはまり精神を崩壊させていく蘭花。そして自身の容姿に対するコンプレックスを美人の親友という肩書きを得ることで埋めようとする留利絵。
女の人の嫌な部分、人間の奥底に秘められている承認欲求の闇。
それが巧妙に描かれていきます。
読後、身近なあの人とあの人の関係って実は、、、そう思ってしまわざるを得ない人間の闇の部分を描いた一冊です。
長濱ねる 『たゆたう』
あらすじ
タレント・長濱ねるが、その日常をありのままに綴った初のエッセイ集。
「稚拙でも、独りよがりでも、矛盾していても、これが私の現在地です」
アイドル活動を経て、ソロタレントとして活躍の場を広げる長濱ねるが、2020年から雑誌『ダ・ヴィンチ』にて3年にわたって連載をしてきたエッセイから21編を自ら厳選。
日常の出来事や、親友や家族、大切な人たちとのエピソード、時には悩み事まで。いったりきたり考えながら、それでも歩みを止めずに進んできた日々を誠実に綴った、自身初のエッセイ集。
感想
著者の長濱ねるさんはかなり「優しい人」です。
優しい人が損をする世界。他人の何倍もの悩みを抱え込んで吐き出せずに、暗い部屋で1日中1人で泣いていたり。そして他人と会うときは一切そのそぶりを見せない。
だから周りからは「ポジティブで明るいよね」なんて言われたり。
そんな優しい人が書く文章は魅力的です。感受性が豊かだからこそ出る繊細さ。だけどしっかりした芯がある。考えすぎてしまう人はそれに向き合えるだけの強さを持っています。
そんな優しい人が書く文章に惹かれるあなたも「優しい人」です。
何もかも投げ出したくなった時、見えないところで苦しんでる人たちがたくさんいることに力をもらえる。1人じゃないんだと思える。
「頑張り過ぎなくていい。沈まないようにただ浮かんでればいいんだよ」
長濱ねるさんのそんな声が聞こえてきます。
尾形真理子『試着室で思い出したら、本気の恋だと思う』
あらすじ
かわいい服を買ったとき、一番に見せたい人は誰ですか—-。
所帯じみた彼と停滞ぎみなネイリスト、長い不倫に悩む美容マニア、年下男子に恋する文系女子、披露宴スピーチを頼まれた元カノ、オンリーワンに憧れる平凡なモテ系女、そして、彼女らに寄り添う1人の女性店員。
ある春の日、路地裏の小さなセレクトショップに足を運んだ女性たちが、運命の一着と出会い勇気をもらう。
ファッションビル「ルミネ」のポスターから生まれた、今の自分が好きになる5つの物語。
感想
恋をしている時、人は服を買いたくなる。
誰かに恋した瞬間に、クローゼットの中身がガラッと変わった経験はありませんか?
相手に褒めてもらいたい。少しでも可愛い自分で会いたい。
そんな時にまず思いつくのが服を買いに行くことです。
この本のタイトル「試着室で思い出したら、本気の恋だと思う」
試着室で着替える人たちは、何を考えて鏡と向き合っているのか。
誰を思いながら、新しい服に着替えるのだろうか。
自分のためというより、相手のために選ぶ幸せ。着る日が待ち遠しくてたまらない幸せ。
試着室には幸せが詰まっています。
恋も服も自分の変化と共に変わっていく。服は自分と共に思い出を経験する。
クローゼットを見た時に自分の好みの移り変わりにびっくりすることがあります。
そして、その服を着ていた時の思い出にしばらく想いを馳せる。
「今日、何を着ようかな」
普段は特に意識せずに選んでしまいがちだけど、この一冊を読んだ今、しばらく物思いに耽ってしまいました。
まとめ
11月のおすすめ本いかがだったでしょうか?
今回はあえて違うジャンルの5冊を選んでみました。気になる本、読んでみたい本は見つかりましたか?
秋が終わり本格的に寒くなってきました。だけど読書好きの読書の秋は一年中続きます。
12月の読書ライフも楽しんでいきましょう。