寝る前に何気なく手に取った『ボクたちはみんな大人になれなかった』。
「明日は朝早いから、軽く導入部分だけを読もう。」
そんな軽い気持ちで読み始めた。 はずだった…
「これって僕の物語だ」
そう思わざるを得なかった瞬間から、ページをめくる手が止まらなくなった。
気がついたら涙が頬を伝っていた。止めようとしても止まらない。
あんな読書体験は、人生で初めてだった。
燃え殻さんの作品を読むと、まるで自分が物語の主人公になったような感覚に陥ります。それはまるで、誰かに心の奥底を覗かれているような不思議な体験。
そして驚くべきことに、どうやらその感覚は僕だけのものではないようです。
なぜ多くの読者がそのような共感に包まれるのか?
この記事では、燃え殻さんの作品を、おすすめのポイントとともに紹介します。デビュー作から最新のエッセイまで、その魅力を詳しく解説します。
作家・燃え殻さんの世界に足を踏み入れたことがない方も、きっと新たな発見があるはず。
ぜひ最後までお付き合いください。
燃え殻とは?その独特の世界観
1973年生まれ。2017年『ボクたちはみんな大人になれなかった』で小説家デビューを果たした作家です。
同作はNetflixで映画化され、またエッセイ集『すべて忘れてしまうから』はDisney+でドラマ化されるなど、映像化、舞台化が相次いでいます。
著書に長篇小説『これはただの夏』、『湯布院奇行』、エッセイ集『それでも日々はつづくから』、『夢に迷って、タクシーを呼んだ』、『断片的回顧録』など、多数の作品があります。
また、2025年4月25日に最新作のエッセイ『この味もまたいつか恋しくなる』が発売予定です。
参考:燃え殻 | 著者プロフィール | 新潮社 (shinchosha.co.jp)
元々はテレビの美術製作会社で働く一般男性でした。通勤電車での暇つぶしに始めたTwitterが大バズりし、そこから作家としての道が開けました。
「燃え殻」というペンネームの由来は、元キリンジのミュージシャン堀込泰行さんが「馬の骨」名義で発表した1stシングル「燃え殻」から取ったそうです。
燃え殻作品の魅力とは? どこか暗いのに、なぜか温かい不思議な感覚
どこか人生を諦めているような暗い雰囲気がありながら、読後には不思議と温かい気持ちになる。これが燃え殻作品の最大の特徴です。
世代や年齢にかかわらず懐かしさを感じさせる文章は、読後もしばらく物思いに耽ってしまうような余韻を残します。
具体的な解決策などは一切書かれていないのに、なぜか心の悩みがスーッと溶けていく。
この不思議な現象はなぜ起きるのでしょうか?
その鍵は「かっこ悪さのさらけ出し」にあると僕は思います。
人間は落ち込んでる時や悩んでるとき、具体的な解決策よりも「そのままでいいんだよ」という肯定の言葉を求めているものです。
燃え殻さんの文章には、劣等感や情けなさ、みっともなさなど、本来なら他人には隠しておきたいような感情が、ありのままに綴られています。
このような飾らない文章だからこそ、読者は卑屈な気持ちにならずに自然と受け入れられ、一文一文が心に沁み渡っていくのでしょう。
人生に悩みや葛藤を抱えている方、忙しない日常の中でも心がほっと癒されるような読書体験をしたい方に、心からおすすめしたい作家さんです。
燃え殻おすすめ作品5選
- ボクたちはみんな大人になれなかった
- これはただの夏
- すべて忘れてしまうから
- ブルーハワイ
- 愛と忘却の日々
ボクたちはみんな大人になれなかった

燃え殻のデビュー作にして映画化もされた大ヒット作。
1990年代後半を舞台にしたノスタルジックな雰囲気が溢れる作品。
大人になってしまった人にぶっ刺さる。
あらすじ
17年前、渋谷。大好きだった彼女は別れ際、「今度CD持ってくるね」と言った。
それがボクたちの最終回になった。
17年後、満員電車。43歳になったボクは、人波に飲まれて、知らないうちにフェイスブックの「友達申請」を送信してしまっていた。
あの最愛の彼女に。
とっくに大人になった今になって、夢もない、金もない、手に職もない、二度と戻りたくなかったはずの《あの頃》がなぜか最強に輝いて見える。
ただ、「自分よりも好きになってしまった人」がいただけに……。
感想
この作品では劇的な展開はありません。
東京の街で普通の男が恋をして、仕事をし、出会いと別れを繰り返す。
最終的には彼女と自然に別れるだけ。
でもだからこそ、その普通の恋愛がぶっ刺さるんです。
誰しもが忘れられない恋をしたことがあると思います。
だけど、それが必ずしも劇的な出来事でなく、気づいたら自然に終わっていったものだったりしますよね。
そんなどこにでも転がっているような恋愛を描いた作品だからこそ、多くの読者に支持されているんだと思います。
これはただの夏

燃え殻の2作目の小説。
「夏」と「別れ」がテーマのひと夏の思い出を描いた作品です。
読後、センチメンタルな気持ちになってひと夏を過ごして離れ離れになってしまった「あの人」を思い出してしまいます。
あらすじ
「普通がいちばん」「普通の大人になりなさい」と親に言われながら、周囲にあわせることや子供が苦手で、なんとなく独身のまま、テレビ制作会社の仕事に忙殺されながら生きてしまった「ボク」。
取引先の披露宴で知り合った女性と語り合い、唯一、まともにつきあえるテレビ局のディレクターにステージ4の末期癌が見つかる。
そして、マンションのエントランスで別冊マーガレットを独り読んでいた小学生の明菜と会話を交わすうちに、ひょんなことから面倒をみることに。
ボクだけでなく、ボクのまわりの人たちもまた何者かになれず、何者かになることを強要されていたのかもしれない……。
感想
安定した仕事に就き、結婚して幸せな家庭を築く。世間一般的にいう「普通の幸せ」を手にしている人でも、同世代の起業家やフリーランスなどのキラキラした世界に憧れてしまう。
逆に、キラキラした世界を生きているように見える人も、悩みや葛藤を抱えていて、本当にこの道を選んでよかったのか何度も悩んでいる。
隣の芝生は青いとはよく言いますが、どちらが正解というわけではなく、自分にないものを求めてしまうのが人間の性だと思います。
そんな「何者かになりたい」というテーマを描いた作品だからこそ、多くの人に刺さるのでしょう。
すべて忘れてしまうから

阿部寛さん主演でドラマ化もされた燃え殻の初エッセイ。
何気ない日常に起きる心を動かされた些細な出来事。何日後かには忘れてしまうようなそんな記憶を思い出させてくれます。
あらすじ
ひとりで聴いた深夜ラジオから聞こえてきた彼女の声。祖母と二人でこっそり見た女子プロレス中継。突然生活に入り込んできた「テレワーク」
良いことも悪いことも、僕たちは忘れてしまう。だからこそ書き残しておきたかった、日常を通り過ぎて行った愛しい思い出たち。
感想
毎日同じような生活を繰り返していると、新鮮さを感じることが少なくなり、まるで時間割で決められた毎日を送っているような感覚に陥ります。
小学生の頃の楽しかった出来事は鮮明に思い出せるのに、昨日の夕飯はすっかり忘れてしまう。
そんな繰り返しの中でも、新しい出来事が必ず毎日起きています。
このエッセイを読むと、歳を重ねる中で失われた感性を取り戻すことができるような気がします。
人生には大きな事件や、一瞬でこれまでの人生をガラッと変えるような出来事はそうそう起きません。
だけど、何気ない日常にこそ小さな幸せが転がっていて、それに気づくことが大切だと教えてくれる作品です。
退屈な毎日を過ごしていたり、辛いことにばかり目を向けてしまったりする大人になった僕たちにこそ刺さる作品。
そして、必ずあなたの心の支えになってくれます。
ブルーハワイ

他人に共有するほどではない。
だけど心の中にそっとしまっておきたくなるような優しい言葉たちが詰まっている作品。
中毒者続出の大人気エッセイです。
あらすじ
ふとしたきっかけで蘇る記憶の数々。
淀んでいた会議の空気を変えた女の子の大ネタ、僕が放った2点の答え(1000点満点中)、「串カツ田中」が愛おしくなった縛りのキツい店、J-WAVEに寄せられたお悩み相談、母の決まり文句、祖母の遺言、柴犬ジョンの教え…
ギスギスした日常の息苦しさを解きほぐす一服の清涼剤。
感想
日常の何気ないことがきっかけで、ふと過去の記憶を思い出すことがあります。
「今までどこに隠れてたの??」
と思うような、思い出してはまた忘れてしまう人生の機微が描かれていきます。
自分の経験ではないのに「分かる!!」と思わず共感してしまうようなエピソードがたくさん。
書店で立ち読みを始めたら、気づいたらその日のうちに一気に読んでしまう、そんなテンポの良さが魅力です。
読後は、不思議と温かい気持ちになり、明日も頑張ろうと思えるような作品です。
愛と忘却の日々

あらすじ
「ロマンチックなことが少なすぎるんだよ」
中毒者、ますます増殖中。六本木の路上で「おっぱい、足りてる?」とキャッチに声をかけられ、「足りてないけど、余裕がないんです」とテンパっていた夜。
小学生の頃、ひどいイジメに遭い、「死にたい」と母に泣きつき、包丁を畳みに突き刺して言われたひと言。
「ベスト・エッセイ」(日本文藝家協会編)選出作を収録、読者渇望の大人気エッセイ集。
感想
日常の中で「どうってことない」と思える瞬間が、後になって振り返るととても大切だったと感じることがあります。
毎日刻まれた何気ない日常が、後になって薄い記憶に変わっていきます。
そんなほろ苦い思い出や楽しい記憶の断片こそ、愛おしくなっていくものです。
燃え殻さんの言葉が、
「みんな頑張りすぎてない?少し肩の力抜いてこうぜ」
的な感じで、ちっぽけだけど偉大な勇気を与えてくれました。
まとめ なぜ「燃え殻中毒者」が続出するのか?
Instagramで「燃え殻さんの作品読んだことありますか?」という質問をしたところ、フォロワーさんの中で読んだことがある方は2割ほどでした。
そんな中で、少しでも多くの方に燃え殻さんの魅力を伝えたくて、この記事を執筆しました。
小説でもエッセイでも、そのどちらも楽しめる素晴らしい作品ばかりです。
この記事をきっかけに燃え殻さんの世界に触れ、「燃え殻中毒」になってしまう方が増えたらこの上なく嬉しいです。
また、Audibleでは今回紹介した「ボクたちはみんな大人になれなかった」や「これはただの夏」を聴くことができます。
30日間の無料体験があるので、ぜひこの機会に利用してみてください。


